蒼天の空。 涼やかな風が吹く。 なんとも良い天気の日――― 「はぁ〜。いい天気になりましたね〜。」 少女は空を見上げ気持ちよさそうに嘆息した。ここには人の気配がない。 緑深い、濃厚な木々の気配と匂いが支配している。そんな中に異質な気配が 一つ生まれた。それは唐突だった。だが、少女はそのことに疑問を感じず、 尚且つ驚いてもいないようである。 そんな彼女に疑問も感じず、当然のように唐突に生まれでた気配は彼女に話 しかけた。 「月の雫だな?」 「?いえ〜違いますよ〜?」 彼女は即答した。のんびりながらも。 「……」 「……」 二人は沈黙し、しばし、お互いを眺めやる。 一人は怪訝そうに。また、一人は幸せそうなホワホワした笑顔を向けて。 「…は?」 沈黙後、少女の前に立つ人物が再び発した言葉は、間抜けにもこんな言葉だっ た。 「だから、わたしは違います〜。わたしは、『月の雫(みこ)』付きの神官です〜 。」 「だが…この感じは『月の雫』と同じだぞ?少し弱いが…」 少女は首を傾げ目の前の人物を見上げた。 「この先はそういえば、余り気配を感じないようにしてましたっけ〜…」 「いや、それにしても気配がこんなに近いことはありえない。」 「えと〜わたし妹なんです〜。」 「ありえん。」 キッパリと言い切られた。そんな目の前の人物を落胆しながら見やり、 「同じこと皆さん言うんですよ〜。『月の雫(みこ)』には兄弟姉妹はいないって。 そんなこと歴史上皆無らしくて、前代未聞だって言うんですよ〜。」 それはそうだ、と言う風に目の前の人物が頷く。 分かっている。少女にも分かっているのだ。『月の雫』とは、第一の生命であ る者たちの頂点に位置する者の"花嫁"であると言って過言ではないのだから。 唯一絶対の不文律。違えることも変わることも無い、絶対普遍の事柄。その存 在が二つだということは、ありえない。ありえないはずだった。 だが、こうして自分はここに存在しているのだ。それは否定してほしくない。 存在を否定してほしくは無いのだ。ならば、わたしはなぜ存在するのか。少し 悲しくなる。肯定してくれるのは姉だけだ。是認してくれるのは姉だけだった 。これまでも、これからもそうなのだろうか?そんな彼女の思考に終止符を打 つように目の前の人物が言を紡いだ。 「だが、本当なのだろうな…お前は『小さな月の雫』と言っていいのだろうな…」 「なぜ…」 皆そんなこと言ってくれなかった。彼女だけ…敬愛する姉だけが言ってくれた" 私の妹、小さな月の雫"と。 スラム街…そこの孤児たちは兄弟姉妹さえ分からぬ場所だ。なんとなく顔立ちが 似ているから兄弟姉妹かもしれない、と言う程度にしかハッキリはしない。そん な中、少女がなぜ『月の雫』の妹だと分かったのか…そっくりだったのだ。容貌 が。いや、それだけでなくどこもかしこもが、そっくりだったのだ。双子ではあ りえなかった。なぜならば、いかにも年齢が違うと分かるからだった。 「なぜも何も、『月の雫』の証である銀紫の髪と紅い瞳を持っているからだ。」 少女の頬に涙が伝う。 “――だから、自分に自身を持つんだ。"姉の言葉が蘇る。怒った顔とともに。 そのとき、不意に風が吹き抜けた。 「エニス!?」 女性とも少女とも言える声が響いた。 |
あれ?未だに主人公たちが出会ってない?微妙に… なぜか意図しないキャラクターが増えていくわ…妹…って |